マイナンバーカード包囲網

 マイナンバーカードは2年前の春に申請して4月か5月くらいから所持しているが、この2年で使ったことは、1回くらいだったように思う。

 先日ソニー銀行の口座を開設しようと思い、マイナンバーカードを指定された2方向から撮影し、つづいて自分の顔をその場で(指示された縮尺で画面を移動させながら)撮影して、撮影済みではなくその場での撮影と認めてもらったところ、まもなく口座が開設され、デビットカード付きのキャッシュカードが送られてきた。

 ほかには、なにかで使っただろうか…。

 実はマイナンバーカードを取得した年に、それを入れたままの財布を落として1時間以内に交番に出かけたことがある。ところがマイナンバーカードに写真が添付してあっても、警察官もわたしもその写真とわたしを照合するという発想がなかった。

 警察官「自分の証明が(本人とわかればこれから返却する)財布にはいっているわけだから、ほかに証明がないですよね、どうやって証明…ま、いっかな〜落としてすぐだし、話も合っていて、申告してもらった中味も同じだし」
 …と返してもらったのだが、帰宅途中で「マスクを取って顔を見せればよかったのか」と気づいた。それくらい、意識としてあれは身分証明とは遠いものだった。取っておかないと何か不都合がありそうな予感が少しずつ芽生えていたのだが、その心配は約2年でとんでもなく重いものになってきている。

 もともとは、運転免許証を持っていないことで、わたしには「身分証明書」がないという焦りがあった。さらに何でもかんでも写真付き身分証明書をという話が聞かれるようになってきていた。これから高齢者に近づくのにいまさら運転免許は持てないし、府中のほうまで朝から出かけて試験を受けるのもたいへんである。どうしよう、どうしようと思ううち、マイナンバーカードを選ぶしかなかったのだ。

 だが、健康保険証まで廃止してマイナンバーカードに一本化するという話が出てくると、自分の決断で早めにマイナンバーカードを作ったわたしよりも、さらに困る人がたくさん出てくる。

 たとえば施設に入居している義母は、自分の名前すら言えるかどうかわからない、いつもうつろな目でぼんやりと日々を過ごしている状態だ。そんな人に、仮に写真撮影をしてマイナンバーカードを持てと手配を代行した場合でも、自分で所持や管理ができるはずもない。そして施設に預けるのは施設でも困るらしいので、作成しても置いておく場所がない。2024年秋以降に健康保険証が廃止になってマイナンバーカードに一本化されるのであれば、急な体調変化で医療機関のお世話になるのも、一苦労である。

 無事に機能している保険証を、何のために取り上げるのだろうか。
 マイナンバーカードの広範囲活用の流れを止めることはできないのかもしれないが、健康保険証だけでも、残してほしい。