戦地を訪れ「しゃもじ」を渡す

 あまりのことに、目の前に何が書かれているのか理解するのに時間がかかった。誰かがテレビで発したネタがTwitterで話題になっているのかと思ったほどだ——。日本の首相がウクライナのゼレンスキー大統領に、広島県のしゃもじに「必勝」と書いて持っていった件である。

 しゃもじを渡すなとか、どうせなら○○を持っていけとか、そういう発想すら浮かばないほどに、わたしはしばらく呆然としていた。おそらく「何かを持っていく」という行為、あるいは手土産を考えに考える人がいるというのが、わたしには想像の範囲外だったのだろう。

 たとえば甚大な災害の現場で物資や労力を提供する、あるいは政情不安で治安が大きく悪化している場所を訪れ情報を交換するのに、手土産のことを考える人はまずいない。相手がそれを見てどう思うかを考えたら、ましてや民芸品は出せない。

 これは、首相が図らずも連発してきた「異次元」の発想ではないだろうか。